3日に分けて読んだ。
こんな傑作を見逃していたとは。
江戸川乱歩と松本清張が絶賛している。
ミステリ専門の作家ではなく純文学の著者によるものなので「門外漢だから大したことないだろう」という先入観で見過ごしてきたのだ。だがよく考えたらクマのプーさんの著者による「赤い館の秘密」も名作だし、コナン・ドイルだってホームズものだけじゃなくSFも書いてる。
まず読み始めてすぐに気づくのはこれが「館モノ」ということだ。
「グリーン家殺人事件」を思い出したが、文中でもヴァン・ダインの名前が出てきてニヤリとする。
そう言えばヴァン・ダインも最初からのミステリ作家ではない。
連載ものということで何話かに一度、坂口安吾が附記を書く。
趣向としては解決編の前に犯人を導くあらゆる手がかりを読者に開示することを約束し、正解者には賞金を支払うと言う。正にエラリー・クイーンばりである。
当然「Yの悲劇」を真っ先に想像する人もいたみたいだがそれも早々に附記によって違うことが明言される。
館ものということで屋敷に大勢の人が集められるが登場人物の多さには閉口した。
警察関係者を除いても30人以上。
読み進めるにあたりわざわざ登場人物のメモを作成した。
タイトルからも想像できるように表面上は連続殺人であり、ミステリ好きであればまずはクリスティの「ABC殺人事件」を思い浮かべるだろう。
そして意外にも坂口はコンセプトとしてはこれを拝借しているのを早い段階で認めている。
じゃあ英米の名作からアイディアを採ってアレンジしただけかというとそうではない。
そしていよいよ「読者への挑戦状」
ここで読み進めるのを止めて何度も最初から読み返して自分なりに犯人を考えてから解決編に挑んだ。
・・・が、まんまと騙された。
感心したのはちゃんとフェアプレイを貫き通していたことだ。
影響を受けたであろうヴァン・ダインやエラリー・クイーンよりもよっぽど公平に書いてある。
それ故に正解者も8人いて内4人が完全正解だった。
確かにちゃんと読めば犯人は当てられると思う。
ミスディレクションも優秀だが、秀逸はある被害者に仕掛けられた心理トリックである。
言い訳を一つすれば「読者への挑戦状」の後にも事件が起こるがこれが挑戦状の前なら自分も完全解決できていた。
もちろんだからと言ってアンフェアという訳ではない。
それにしてもネタバレを知る前に読めたのは奇跡だった。
登場人物リストを自分で作る手間を惜しまないのであれば青春文庫でも読めます。